今年の夏も半分が過ぎて、ようやく夏休みが始まった。
ジャンハオの夏休みの予定はハンビンは勝手に組んだ。終業式が終わるとすぐに済州島に飛んで夏休みを過ごし、始業前の2週間はハンビンが所属する予備校の授業を一緒に受けるという野心的な計画だった。 同級生の祖父が経営するホテルの部屋を貸してくれるらしい。繁忙期シーズン、高校生が楽しむ休暇にしてはスケールが大きかった。
ハオはこの予定を承諾した覚えはなかったが、ニ週間の課外授業はとても魅力的だった。自分が最高の講師陣で構成された集中課外授業を受けることができるなんて。 個人で受けるのも難しく、同じ学区でも成績優秀で裕福な家の生徒数人が一緒に受けてこそ可能だったという。
その中に入れてくれると誘われ、心が揺さぶられないはずがなかった。動揺するハオの眼差しを見逃さなかったハンビンが、決まりだと釘を刺した。
喧嘩をして以降、ハンビンとの接触を避けたかったが、旅行も課外授業も断る暇なく、すぐさまやってきた。夏休み中に荒れた心を落ち着かせようとしたハオの思惑は、序盤から崩れ落ちた。
こうして、慌ただしく混乱した心をどうすることもできないまま、済州島行きの飛行機に乗り込んだ。
「お、お饅頭、お前も?」 野球帽をかぶったチェジョンヒョンに空港で会ったのは意外だった。あのとき別れた後、ジョンヒョンとは特に言葉を交わすことがなかった。
「ごめんね」というハオのメッセージに「また試合を見に来い」という返事をもらっただけだった。結局、準々決勝で落ちたそうだが、ここで会うとは思わなかった。 ハオが頷くと、癖のように頭を掻こうとしたジョンヒョンは、帽子から指を滑らせ、恥ずかしそうに手を下ろした。変わらない姿に安心した。
「それじゃ。」 ハオの腕を引っ張るハンビンに促され、挨拶もままならなかった。 飛行機のチケットまで手配してくれたのか、同行するメンバーの席はほとんど一か所に固まっていた。ハンビンはハオを窓際に押し込んで隣に座った。不親切ではないが、ずっとぎこちない態度だった。 短い飛行時間の間、ハオはずっと寝ていた。極度に敏感になっていたところに蓄積された疲労が襲ってきたからだ。ぐっすりと眠って起きると、ハンビンの肩の上にゆったりと頭を預けたままだった。 気付かないふりをして体を離すと、ハンビンと目が合った。一睡もせずにずっと見つめているかのように凝視していた。困惑したハオは唇を噛み締め、目を丸くした。ハンビンが反対側の腕を伸ばし、ボサボサに乱れたハオの髪を整えた。
息が詰まる。
全部捨てて、もう一度昔に戻りたい。 二人きりになるだけで平穏だったあの頃、何もしなくても、何も話さなくても楽しかったあの頃へ。
ハオは気付かれないように深呼吸を飲み込み、平静を装って声をかけた。
「目が赤い。少し寝ればよかったのに。」 「疲れたらホテルで寝ればいいよ。お腹空いてない?」 「大丈夫。」
積み重ねてきたこれまでの時間だけがハオの味方をした。十年間交わした日常的な会話は、意識しなくても自然に出てくる。ハンビンもそうなのか、当たり障りなく答えた。吐き気を催すような不快な空気が少し和らいだ。知らないふり、平気なふりをして旅を楽しめそうな、ちっぽけな勇気が湧いてきた。
済州島は初めてだった。幼い頃、館長がハンビンを連れて出張や旅行に出かけるときは、専属の秘書と共にハオも付いて行った。ハンビンは学ぶべきことが多いのと同じように、行くべき場所も多い子供だったが、ハオと離れようとしなかった。
そうしてハオは中国と韓国のほかにも様々な国を訪れたが、済州島には来たことがなかった。ハンビンは済州島へ行くたびにみかん味のチョコレートやドルハルバンの飾りを買ってきてくれた。